書籍・雑誌

2008年4月27日 (日)

『仮面山荘殺人事件』感想:純粋であったが故の楽しみ。純粋であったが故の罪。そして純粋なる愛。(ネタバレっぽいヒントあり)

今回は東野圭吾さんの初期作『仮面山荘殺人事件』です。

まず

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)

です。かなり高めの、甘めの点数になっています。

本作の上梓は1990年。東野圭吾さんの作品群にあっては初期作にあたるかと思います。
内容は題名の通り、館(山荘、屋敷)もののクローズド・サークル・ミステリです。

本作の主人公である樫間高之は、若くして映像制作会社を経営している実業家であり、しかもその会社は、近年「成功」した部類に入る業績をあげていました。その「成功」した要因の1つが、大企業・森崎製薬とのコネクションでした。

高之は2年前にある自動車事故に巻き込まれ被害者の立場になるのですが、その際の加害者側の人物が、森崎製薬社長・森崎伸彦とその妻・厚子の娘、森崎朋美(当時21歳)だったのです。
朋美はその事故の結果、左足首から先を失い、念願が叶いつつあったバレリーナとしての夢を失ってしまいます。自棄になった彼女は病室で自殺未遂に及ぶのですが、たまたま高之が見舞いに来ていたため、一命をとりとめることになるのです。
この件で高之は森崎社長夫妻から大きな信頼を得ただけでなく、朋美とも親しくなっていくきっかけを掴みます。
高之は見舞いを通じて、夢を失った朋美を励まし、小さな体で懸命にリハビリを頑張る彼女を美しいと感じるようになります。程なくして二人は純粋に愛し合うようになり婚約するに至るのですが、結婚式の4日前、朋美が運転していた車が崖下に転落し、彼女は亡くなってしまうのです。

警察は目撃者の証言や現場の状況から「事故」と断定しました・・・。

それから三ヶ月後、高之は森崎社長から例年行われているという「別荘での避暑」を一緒に過ごさないかとの誘いを受けます。朋美が亡くなったとはいえ、森崎夫妻は高之を本当の娘婿のように扱ってくれていたのでした。また、高之としてもバックに付いてくれている森崎製薬社長の誘いを断る理由はありませんでした。

こうして高之に森崎一家、森崎家の親類の篠一家、そして森崎社長の秘書に主治医など、計8名の男女が森崎家所有の別荘に集まり、朋美の追悼も兼ねた懇親会を催していたのですが、そこに突如逃亡中の銀行強盗犯たちが押し入ってきたのです。8人は軟禁状態に置かれて、山荘はクローズド・サークルと化してしまいます。

脱出や外部への連絡の試みはことごとく失敗に終わり、恐怖と緊張が極限に押し迫る中、8人にとって更なる悲劇が起こります。軟禁されていた8人の内の1人が他殺体となって発見されるのです。しかも現場の状況は、強盗犯らの犯行とは到底考えられないものでした・・・。

この中に殺人犯がいる・・・そう確信した7人の男女は次第に疑心暗鬼を募らせ、パニックへと陥っていくのですが・・・


文庫本にして300ページ弱、文体も東野圭吾さんらしく非常に読みやすいものになっているため、本格ものが好きな方でしたら一夜にして読み終えてしまう作品かと思います。
その点も含めて、長編である『秘密』や『白夜行』などを読んで東野ファンになったという方に、「こんなお話も書いてるんだよー」と個人的にオススメしたい作品でもあります。
そして「大どんでん返し」が好きな方にも、是非!という内容となっています。

ところで個人的満足度が9☆な件ですが、自分が本作を手に取ったのはちょうど3年近く前・・・まだあまり活字に慣れていなかった頃であったため、ほとんど先入観を持たずに純粋に楽しむことが出来たためです。
私はすっかり騙され、「なるほどー」と思ってしまいました。
今読むと・・・もしかするとトリックに気が付いてしまう可能性がありますので、そうなるともう少し満足度が下がるかもしれません。

ちなみに本作を読んでいて、なんか変な雰囲気といいますか、「違和感」を感じられた方は鋭いと思います。
その「違和感」は、この作品に仕掛けられたトリックの大きなヒントになってますので・・・。

あと、森崎朋美さんと篠雪絵さんについてどのような印象を抱くかでも、本作の感想は変わってくるかと思います。


東野圭吾『仮面山荘殺人事件』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)

ちなみに私は「雪絵さん、そりゃダメだよ・・・」という感想を持ちました・・・。

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2008年4月23日 (水)

『時計館の殺人』感想:悲しく歪んだ愛情

今日は綾辻行人さんの館シリーズ第5作目であり、第45回日本推理作家協会賞受賞作でもある『時計館の殺人』の感想です。

まず初めに

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆★(7.5/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

です。

綾辻行人さんの館シリーズでも特に長い(文庫本にして600ページ強)のが、この『時計館の殺人』です。

綾辻さんのデビュー作『十角館の殺人』の冒頭で「エラリイ」が述べる「ミステリにふさわしいのは、時代遅れと云われようが何だろうが、やっぱり ね、名探偵、大邸宅、怪しげな住人たち、血みどろの惨劇、不可能犯罪、破天荒な大トリック・・・・・・。絵空事で大いに結構。要はその世界の中で楽しめれ ばいいのさ。但し、あくまで知的に、ね」という台詞が、一連の館シリーズの中で一番よく当てはまってるのが本作だと思います。

本作は、十年前に一人の少女・古峨永遠が死んだ後、それに関連するかのように幾人もの人が死んでいったという「時計館」における一連の事件を扱った作品です。

少女の死より十年後、鎌倉の森の暗がりに建っているその「時計館」で、雑誌『CHAOS(ケイオス・・・たぶんムーみたいな雑誌)』主催による 「オカルト企画」を催すため、同誌の副編集長にカメラマン、そして『十角館の殺人』にも登場した(当時はK**大学の元ミステリ研の学部生だった)同誌の 新米編集者の江南孝明と、テレビ等にも出演している有名”霊能者”光明寺美琴に、W**大学超常現象研究会の面々が集まることになります。

「十角館」同様、建築家”中村青司”によって建てられた「時計館」は、非常に独特な・・・異様な雰囲気を放つ構造になってお り、「新館」には何故か館の入り口側から背を向け、時刻を示す針を持たない無い時計塔が、さらに、事実上窓さえ無い「旧館」には、ちょうど振り子時計を模したような間取りの館中に、108個もの時計がひしめいていたのです。
そしてこの「旧館」に、企画の参加者たちが三日 間外界から完全に隔離するように籠もって、降霊会を開き、亡霊と接触しようとするのですが・・・この「オカルト企画」の趣旨によってクローズド・サークル と化してしまった「時計館・旧館」において、連続殺人が起きてしまうのでした。

すぐそこに、固く閉ざされた扉を隔てた向こう側に・・・「時計館・新館」に、人がいるのに、「探偵役」がいるのに、連絡が取れない、脱出も出来ない。
そんな異常な状況がより恐怖感を増し、読者をより本作の世界へとのめり込ませているように思います。

殺人事件発生後、「時計館・旧館」に言わば「閉じ込められた」人々は、外部への脱出を試みるのですがそれがまず不可能と理解すると、「旧館」の捜索に乗り出します。
しかしそこで発見されるのは、ずたずたに切り裂かれた上に、どす黒い染みが大きく胸元を汚している純白のウェディングドレスなど、奇妙でおぞましいものばかり。

十年前に一体何があったのか?

そして、今起きてるこの状況は何なのか?

そして「時計館」のこの不思議な構造は何なのか?

この館の主・古峨倫典が遺した詩の意味・・・「沈黙の女神」とは何なのか?

本作で描かれている「大きなトリック」には気が付いてしまうかもしれませんが(私も残念ながら気が付いてしまいました)、館が持つ意味、動機や凶 器の必然性など、「大きなトリック」以外にも興味を惹くような謎が様々あり、それらは伏線として最後に綺麗にまとまっていたこともあって、個人的には大変 楽しませて頂きました。

ミステリ好きな方には是非オススメしたい作品でもありますが・・・ちょっと長い作品ですし、「大きなトリック」に気が付いた時点で興味を失ってしまう方もいそうなのが、少し残念ですね・・・。

ともあれ少女・永遠さんに安らかな眠りが与えられることを願って。



綾辻行人『時計館の殺人』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆★(7.5/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

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日本推理作家協会賞受賞作全集〈68〉時計館の殺人 (双葉文庫) Book 日本推理作家協会賞受賞作全集〈68〉時計館の殺人 (双葉文庫)

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2008年4月21日 (月)

『十角館の殺人』感想:その1行で世界は変わった

今日は、綾辻行人さんのデビュー作『十角館の殺人』の感想です。

まず

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(10/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)

です。

故あって3年ほど前からベッドで過ごすことが多くなった私は、その頃から活字を読むようになりました。
それ以前はともかく活字というものをほとんど一切読んでこなかったため、一体どんなものを読めばいいのか迷ったのですが、友人から勧められ本作を手に取ったのでした。

友人曰く「ともかく読んでみろ」と。

何でも本作は、ミステリの世界において「新本格」「綾辻行人以降」という言葉を生み、一種のメルクマールとなった作品だと言うので、「じゃあ、すごいんだろうな」と思い、軽~い気持ちで読んでみるかと思ったのですが・・・。

活字慣れしていなかったこともあって、ともかく序盤は読みづらく、ミステリ研のメンバーが、高名なるミステリ作家たちの名を渾名にして呼び合うのも「なんだかな~」と思ったものです(私は漫研などで「○○先生」と呼び合うのもすっごく苦手です)。
しかし「ミステリにふさわしいのは、時代遅れと云われようが何だろうが、やっぱりね、名探偵、大邸宅、怪しげな住人たち、血みどろの惨劇、不可能犯罪、破天荒な大トリック・・・・・・。絵空事で大いに結構。要はその世界の中で楽しめればいいのさ。但し、あくまで知的に、ね」と言って社会派ミステリには辟易だという「エラリイ」の台詞には、「うんうん」と頷いていました。「そうだなぁ・・・僕もそっちの方が好きだ」という具合に。

そうして始まった物語は、大学のミステリ研の面々が、半年前に凄惨な四重殺人事件が起きた大分の沖合にある孤島の館を訪れ、そこでの出来事が描かれる「島の章」と、島に行かずに大分本土に残った元ミステリ研の面々などの模様が描かれる「本土の章」を、日ごと繰り返しながら進むものでした。
そしてセオリーどおりに島で起こる連続殺人と、以前に島で起きた四重殺人事件を調査したりする本土の章が描かれ、

「おー、一人死んだ」

「あ、また死んだ・・・」

「ああ、次はこいつが死んだかぁ」

などと『そして誰もいなくなった』のような展開に、特段驚くこともなく読み進めていったのですが、とにかくどこがどうすごいのか、浅学な私には全然分からない。
至って普通の・・・『金田一少年抜きの金田一少年の事件簿』みたいな印象を受ける始末。
また自分が活字離れしていたこともあって、「この作品がすごい!すごい!って言われるってことは、よほどそれまでのミステリはダメダメだったのかなぁ・・・」などと思い、

「あー早く終わって欲しい」

「で、結末はどうなのよ?」

と、正直もうじれったく、半分飽き飽きしながら読んでいったところに凄まじい勢いでのカウンターアタック。痛恨の一撃。

例の1行を読んだときの、目で追ったときの、確認したときの衝撃ったらなかったです。

「え?あれ?」

「あ、えーと・・・」

「あ!あ!うあ!そういうことかあああああああああ!」

と、頭の中だけではその衝撃を受け止めきれず、思わず声となって口から漏らし、いつの間にか今までのページをめくり直していました。

誰が犯人か?
トリックは?
動機は?

こうした謎には、読んでいくうちに大方予想がついた、という方はかなりいらっしゃるかとも思います。

ですが、この世界に仕掛けられていたもっと大きなトリックに気が付く人は、そうはいないのではないでしょうか?

なるほど、自分は最っ初から、綾辻さんの掌中で踊らされていたのだなぁ・・・と思い、「綾辻行人以降」という言葉が生まれたのも頷けるほどの衝撃でした。

たった1行で読者が抱いていた世界観をひっくり返すとは・・・
なるほど確かにこれはすごいなぁ・・・と思ったものです。

そうして生まれた「新本格」の流れから我孫子武丸さんなどがデビューし、その我孫子武丸さんが乙一さんの才能をいち早く見抜くなどして現在に至る流れを作ったと考えると、「うん、確かにこれはすごいわ」と何度も一人頷いていました。

今読むとちょっと古くさい感じもしますし、こうしたトリックが他の作品でも使われることが珍しくなくなってますので、自分が読んだときほどの衝撃度を得ることは出来ないかもしれませんが、ミステリ好きで大どんでん返しが好きで未読の方になら是非、オススメしなければ!という作品です。

綾辻行人『十角館の殺人』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(10/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)


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2008年4月20日 (日)

『ゴールデンスランバー』感想:「たいへんよくできました」な、三十路に贈る青春エンタメ(ネタバレあり)

今回は伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』が第5回本屋大賞を受賞したとのことで、急遽予定を変えてその感想です。
ちなみに予定通りだと、アガサ・クリスティ女史の『そして誰もいなくなった』つながりで、綾辻行人さんの『十角館の殺人』をやるつもりでした。

ともかくまず最初に

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(10/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

です。
個人的満足度は、今後、本作を上回るような作品を書いて欲しいという気持ちも込めて9.5☆
限りなく満点に近い9.5☆ということで。
伊坂さんファンなので、ちょっと(かなり?)甘めかもです。
あと感想がまとまりを欠き長いです。

それから本作はなるべく前知識や先入観を持たずに読んで欲しいですので、そうして下さる方には即ブラウザバック推奨です(^-^)





さて、本作は「伊坂幸太郎的に娯楽小説に徹したらどうなるか」という発想から生まれた作品だそうで、実際、そのコンセプトを裏切らない500ページ強に及ぶエンターテインメント長編になっていました。相変わらず伏線の回収とまとめ方も素晴らしかったです。

本作の大まかなストーリーは、「セキュリティポッド」と呼ばれる最新の監視装置があちこちに配された仙台市街・・・その仙台市街でパレード中だった首相を爆殺したとの罪を着せられた三十路ちょい過ぎの男(ちなみに現在失職中)・・・青柳雅春の逃亡劇となっています。

首相暗殺と国家的陰謀(・・・そう!陰謀論!)の影。そして濡れ衣を着せられた無辜の一般市民とその逃亡劇・・・と、何やらハリウッド映画や日本 の他のあらゆる娯楽作品でも既にやり尽くされ手垢まみれの感のある設定でしたが、エンターテインメント性をしっかりと残したまま、冤罪に監視社会、そして マスコミによるメディアスクラム等の社会問題もしっかり取り入れてる点は、「流石だなー」と思わずにはいられませんでした。

さて、本作の妙はその構成にあります。

導入部となる第一部「事件の始まり」の後の第二部「事件の視聴者」では、事件発生からおおよそ3日間における事件の当事者以外(野次馬やマスコミ や目撃者や一般市民)の反応が描かれ、首相暗殺の黒幕(それが誰なのかは分からない)や、マスコミによって作り上げられた「首相暗殺犯・青柳雅春」の姿が 描き出されて、事件の視聴者とともに私たち読者もそこで「青柳雅春」なる人物のイメージを形成させられます。

しかし次の第三部「事件から20年後」では、ノンフィクションライターの調査書を用いる形で、事件の真相に関する様々な憶測が述べられた後、「た だひとつだけ確かなことがあるとすれば(中略)青柳雅春が、首相殺害の犯人であると信じてる者は、今や一人もいないだろう」と述べられ「逃げ続けていた二 日間、青柳雅春がいったい何を考えていたのか、誰にも分からない」と締めくくられているのです。

事件の喧噪に塗れた第二部と、事件を冷静に分析した第三部。
そこでは「青柳雅春」に関する評価が全く違ったものになっています。

そのギャップを埋めるのが、本作の核であり本編とも言える第四部「事件」です。

この第四部は、逃亡する主人公である「現在の青柳雅春」だけでなく、「学生時代の(昔の)青柳雅春」と、大学時代のサークル(それは本当にくだら ない、ファーストフード店でだべるだけの小さなサークル)仲間で、同時に青柳雅春の彼女でもありながら、その後彼と別れ、他の男性と結婚、大学卒業後勤め ていた会社を円満退社し、今や一児の母となっていた「現在の樋口晴子」と「学生時代の(昔の)樋口晴子」という主に4つの視点をもって重層的に描かれていま す。緊迫感溢れる逃亡劇を強いられている「現在」の鬼気迫る状況と、仲間たちと楽しく安穏とした日々を過ごしていた10年ほど前の「学生時代」の温かなエピソードが、こ の二人の視点を通すことでより強いコントラストを放ちながら、とても印象的なものとして描かれています。

また、本作を面白くしているのが、登場人物たちが三十路をちょっと越えたあたりということにもあると思います。

「何でも消えていくよね、ほんと」と第一部で樋口晴子が述べるとおり、三十路を過ぎた登場人物たちにとって、大学時代はまさに消え去ろうとしている過去。
学生時代の気分が抜けきらなかった20代前半と違い、20代後半から30代前半というのは、仕事ではより責任のある地位を与えられ、プライベート では結婚、そして子をもうけるなどして、人生の新たな目標を定めるような時期・・・そんな端境の時期にあって、疎遠となっていた学生時代の仲間たちが、こ の首相暗殺という大事件によって、過去の記憶を呼び起こしながら、動き出すのです。

家族を事実上の人質に取られ、陰謀に荷担させられていた大学時代のサークル仲間で親友でもあった森田森吾は、事実上8年ぶりの再会になる青柳雅春を 陰謀に陥れるために輸送中であった車内で、ビートルズの『ゴールデン・スランバー』を口ずさんだ後、「帰るべき故郷、って言われるとさ、思い浮かぶのはあの時の 俺たちなんだよ」と目を細めながら、学生時代を思い起こし、

「おまえ、オズワルドにされるぞ」

「おまえは逃げろ」

と、自らを犠牲にするように一人車内に残り、青柳雅春を逃がします。

また、同じくサークル仲間で1年後輩であった「カズ」こと小野一夫も、陰謀に荷担させられそうになりながらも、数年ぶりに再会した青柳雅春を逃がします。

そして何より昔の彼女であった樋口晴子も、です。

彼女は事件翌日の報道で、かつての彼氏、青柳雅春が「犯人」として取り上げられてるのを見て呆然とし、「別れてからもう大分年月も経つ・・・人は 変わることもあるかもしれない」などと思いつつも、報道される「首相暗殺犯・青柳雅春」の姿が、あまりにも自分の知ってる「青柳君」と違うことから、疑惑 と確信を抱き、娘の七美とともに行動を開始するのです。しかし彼女だけは「青柳雅春」と再会はしません。ここも本作の秀逸な点であり、また伏線になってい るかと思います。

その他にも学生時代のバイト先の轟社長、大学卒業後就職した運送会社の岩崎先輩や、同業者であった前園さんなど、「青柳雅春」の本来の姿を知る様 々な人々が彼の逃亡に力を貸し、さらには定年間近で閑職に追いやられていた警察官の児島安雄さんまでが、青柳雅春と接してるうちに彼をサポートするように なります。

また「青柳雅春」にとって敵役としてあてがわれている警察庁の佐々木一太郎課長補佐(ということはノンキャリ?)や、近藤守刑事などにも、所謂「黒幕」から様々な圧力がかかっていたのだろうなと思われ、憎々しい思いを抱くこともそれほどありませんでした。

青柳雅春は自分の現状に対し「誰かの、どこかの誰かの思惑でこんなことが起きている」・・・関係のない人や自分の知り合いに危害が加えられ、死んでいく、と憤ります。
それに対しある人物は「青柳さんが相手にしているのは、馬鹿でかい抽象的な敵だよ。たぶん、国家とか権力とか呼べちゃうようなさ」と述べ、それに対峙したときに一番利口な方法は「逃げること、かな」とアドバイスします。

青柳雅春もそのことは重々承知していた上で、逃げる前に一世一代の賭けに出るのですが・・・。

その先にどのような結末が待っているかは、エピローグとなっている第五部の「事件から三ヶ月後」で。
繰り返しになりますが、数々の伏線が美しくまとまっています。
私にとっては号泣はしないものの、登場人物たちのように知らず知らず泣いていたというシーンが何度もある青春エンターテインメント作品でした。
東野圭吾さんの最新作『流星の絆』の帯文の「息もつかせぬ展開、張り巡らせた伏線、驚きの真相、涙が止まらないラスト。すべての東野(伊坂)作品を超えた現代エンタメの最高峰」という言葉がより似合うのは、こっちのような気もしました^^
「彼らが仕掛けた復讐計画の最大の誤算は、妹の恋心だった」も、「彼らが仕掛けた暗殺計画の最大の誤算は、青柳雅春を繋ぐ絆だった」という感じに。

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なお、ビートルズの『ゴールデン・スランバー』がどのようにして作られるに至ったかを考えながら読むと、読了後の余韻もまた心地よいものになるかと思います。
それから相変わらず伊坂作品の主人公は清潔漢ですね(^-^)



伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(10/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

ちなみに余談で、ほんとーにどうでもいいことですが、第三部を書いているノンフィクションライターは、第二部に登場している名無しの中学生かとも思いましたが・・・真相は闇の中、ですかね^^;

ゴールデンスランバー Book ゴールデンスランバー

著者:伊坂 幸太郎
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2008年4月15日 (火)

『そして誰もいなくなった』感想:そしてここから始まった。

今回はアガサ・クリスティの作品の中で・・・というよりも、古今東西のミステリにおける最高傑作の1つに数えられる『そして誰もいなくなった』の感想です。

まず

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(10/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

です。

孤島というクローズド・サークル。お互いに面識のない招待客。意味深なマザー・グースの歌。次々に殺されていく登場人物。それに合わせるように減っていくインディアン人形。そしてとうとう誰もいなくなってしまった結末・・・。
来年で刊行から70周年を迎える本作は、21世紀の現代において今なお色あせない輝きを放っており、その後のミステリに多大な影響を与えました。

本作の特徴は、エルキュール・ポアロやミス・マープルのような「探偵役」、あるいは「進行役」になる人物が存在しないことでしょう。
クローズド・サークルと化した島で、お互いに面識のない登場人物が、過去の「罪」を告発されながら、一人また一人と死んでいく・・・殺されていく様が、緊張感溢れるサスペンス・タッチで描かれています。
マザー・グースの歌になぞらえられた死に方・・・殺され方も様々であり、次第に焦燥しきっていく生存者たちに並行して、読者には緊張感と犯人を推理していく楽しみが与えられます。

果たして犯人は誰なのか?

そして動機は何なのか?

それらが最終盤で明らかになった時、満足するか、驚嘆するか、予想通りと思うかは読者次第だと思います。
ちなみに私は十分に満足させて頂きました。

本作がミステリの新たな地平を開拓したことに敬意を表して。


アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(10/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) Book そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

著者:アガサ クリスティー
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『ねじれた家』感想:ねじれてる家。ねじれられない家。

今回はアガサ・クリスティ作の『ねじれた家』の感想です。

まず

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆(8/10☆)

です。

たとえアガサ・クリスティの作品を読んだことが無くとも、また彼女が作家であることを知らなくとも、その名を聞いたことがない、という方は少ないのではないでしょうか?
「ミステリの女王」と呼ばれたアガサ・クリスティは、多くの作品を私たちに遺してくれました。
『そして誰もいなくなった』『オリエント急行の殺人』『ABC殺人事件』に『アクロイド殺し』etc...
また、そうした作品群の中で、エルキュール・ポアロにミス・マープルといった名探偵たちも生み出しました。

そんなアガサ・クリスティが、雑誌のインタビュー等で自らの作品を格付けした際に、常に上位に挙げていたのが、この『ねじれた家』だったそうです。
私はポワロや『そして誰もいなくなった』などを耳にしたことはあっても、『ねじれた家』という作品については、3年前に本を読み始めるようになるまで全く知りませんでした。

しかしたまたま上記のような事実を知り、古本屋で本書を見つけた私は、「ミステリの女王」が自薦する作品を読んでみようとレジに向かったのでした。

本作は、大金を掛けて建築され、確かに豪華ではあるもののまったく釣り合いを無視して奇妙にふくれあがってしまった「ねじれた家」に住む「心のねじれた老人=一代にして巨財を成したアリスタイド・レオニデス」が毒殺されたことから物語が動き出します。
その老人の孫娘・・・ソフィア・レオニデスと恋仲であった外交官のチャールズ・ヘイワードは、父がスコットランドヤードの副総監であることもあって、タヴァナー主任警部とともに事件解決のため「ねじれた家」に乗り込むのですが・・・

「ねじれた家」には一癖も二癖もある3家族・・・「老レオニデス一家」「老レオニデスの長男であるロジャー一家」「老レオニデスの次男であるフィリップ一家」が住んでおり、さらにそこに、老レオニデスの義姉、老レオニデスの孫らの家庭教師、それに使用人や弁護士などが絡んで、複雑な人間関係が形成されていたのです。
そして彼らはこの「ねじれた家」の中で、お互いに愛し、憎み、嫉妬し、疑い、依存しながら、ねじれた生活を送っていたのでした・・・ちょうど亡くなった老レオニデスがそうであったように。

さて本作のポイントですが、それは主人公であるチャールズが、ポアロのような「名探偵」では無いことです。
彼はヤードの副総監である父の助言通り、『ねじれた家』に住む一族らに様々な質問を投げかけ、主として聞き役に回りながら様々な情報を引き出していきます。
そのため本作では、会話の部分がとても多くなっており、そうした中からチャールズと似たような立場で読者が犯人像を推理をするような形式になっています。
また、この作品でも『そして誰もいなくなった』と同様、以下のようなマザー・グースの唄が取り入れられています。

ねじれた男がいて、ねじれた道を歩いていった
ねじれた垣根で、ねじれた銀貨を拾った
男はねじれた鼠をつかまえるねじれた猫を持っていた
そしてみんな一緒にちいさなねじれた家に住んでいたよ

この作品については、そのクライマックス・・・犯人が分かる場面で、私は戦慄を覚えました。
ラストはチャールズの父の言葉で終わるのですが、まさにその通りの読後感となりました・・・。

ちなみに現在ではレオニデス一族のようにねじれて絡まってしまった家というのは珍しくないかもしれませんね。
同時に、ねじれることすら出来ない、平行線を辿ったままの家も少なくないような気がします・・・。


アガサ・クリスティ『ねじれた家』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆(8/10☆)

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2008年4月13日 (日)

『笑わない数学者』感想:神のトリック、凡人の知恵、そして真賀田四季の影(ネタバレあり)

チョコ(GABA)とコーヒーで足りない頭を働かせながら森博嗣さんの『笑わない数学者』をなんとか読了しました。

まず

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

です。ちょっと甘いかもです。以下ネタバレ分を含みますので未読の方はご注意を。


『笑わない数学者』はS&Mシリーズ第3作であり(書かれた順では『冷たい密室と博士たち』に次ぐ第2作)、同時に私にとっても第3作目となる森博嗣作品でもありました。
前作となる『冷たい密室と博士たち』と『すべてがFになる』は、森博嗣さんの作品世界に入門するような気持ちでスススーと読んでいったのですが、2作を読んで大分慣れた(つもりだった)ので、本作は精読しようと決めました。
というのも裏表紙の粗筋によれば、本作はなんと本格ミステリの王道たる「館もの」の模様!
これは犯人とトリックを是が非でも当てなければ!と息巻いて読み始めたのですが・・・

中表紙裏の館の見取り図を見て(前作の「極地研」の見取り図にはなかった方角表記がトリックの大きなヒントになってたり)「えーと、これはもしや・・・」と思ったらまさにその通りのトリック・・・。
そしてそのトリックから必然的に導き出される犯人。
序盤も序盤、第3章までには、多くの読者が殺人事件のトリックも、それを行った犯人も想像がつくでしょう。
意地が悪く、すぐに調子に乗ってしまう私からすれば、Who done it(フーダニット)とHow done it(ハウダニット)が分かった時点で有頂天になり、どうせ動機=Why done it(ホワイダニット)もありきたりのものだろう「ツマンネ」と言って本書を放り出してしまいそうなものですが、その意地の悪さが幸いしました。

意地の悪い私は、この殺人トリックは読者をミスリードさせるものではないかと思うに至ったのです。そうして、最後はどうなるのかとドキドキしながら読んだのですが・・・犀川助教授も西之園萌絵も、そもそもその殺人トリックになかなか気付いてくれずストーリーは終盤へ。

そして終了。

確かに終了したのですが、読了後に残ったのものは、私にとって殺人トリックよりも興味深い謎でした。
思わずアガサ・クリスティ女史の『ねじれた家』を思い起こさせるような、天才数学者・天王寺翔蔵博士を中心にした不思議な一家、いや一族。

果たして天王寺翔蔵博士とは何者?
ラストの白髪の老人は何者?
白骨死体は一体何者のもの?

これらの疑問がグルグルと足りてない私の脳みその中で渦を作り、知的好奇心を刺激したのです。

「もう一度読んでみよう」
そう思った自分は、付箋紙を取り出しました。

Mori000


最近、薬の副作用で健忘が激しい私は、神のトリックに凡人の知恵を以て挑んでみたのです。
三ツ星館が内宇宙と外宇宙を反転させてるとしても、私を含め読者はさらにその外側にいる。
そして私のような凡人でも、付箋紙を元にページをめくり直せば、正確な情報を得ることができます。
ですが、現実ではこうはいきません。
昨日の出来事を正確に反芻出来る人が現実にどれだけいるでしょうか?
事実、作品内の犀川助教授は記憶の中から問題の糸口を掴むのに苦労しました。
しかし作品世界のさらに外にいる私は、付箋紙の貼られたページをめくり直しさえすれば、正確な情報を得ることが出来るのです。

まず最も気になった点は、『笑わない数学者』というタイトルです。
『すべてがFになる』と『冷たい密室と博士たち』で、タイトルからトリックやストーリーを推察するというちょっとしたズルをした私は、ここでも同じ手段を取りました。
犀川助教授が終盤で言うように、白骨死体となった人と、地下室の老人と、さらにどこかにいる(であろう)老人が、天王寺翔蔵博士と、天王寺宗太郎、片山基生なのだとすると、「笑わない数学者」は白骨死体のみ。つまり白骨死体こそ天王寺翔蔵博士である可能性が高い。
彼は『睡余の思慕』のように、三ツ星館から出て行ったのではないかと推測されます。
では地下室にいる老人と、ラストシーンに出てくる老人は誰でしょう?
ラストシーンの老人に関しては、あまりに情報が少ないので、私は地下室の老人から考えてみることにしました。

地下室の老人は「天才数学者」ということになっていますが、私にはあまりそういう感じがしませんでした。
それは私が真賀田四季博士という天才に巡り会っていたからかもしれません。
事実、犀川助教授は地下室の老人との対面後、失望したと述べています。
また、解説で森毅さんは地下室の老人は「少しも偏屈でない」と述べてますが、私のような文系凡人からすると、ものすごい理屈っぽい偏屈な人に感じられました。
そして理屈っぽいと言えば天王寺宗太郎ではなく、片山基生でしょう。
何せ息子が「理屈っぽかった」と評しています。

また、萩原刑事が探してきた写真では基生氏が「仙人のような長髪になった」となっています。
さらにもしかすると『睡余の思慕』も、その作風が以前の著作とまるっきり違うことから、天王寺宗太郎ではなく、片山基生が書いたのかもしれません。
宗太郎が亮子や君枝から愛され、昇から思慕されていたのと対照的に、基生は誰からも愛されなかった・・・飛行機事故で一人生き残ってしまった人物のように、孤独感を感じていたのかもしれません・・・。
そしてその作品の原稿のコピーを「ぞっこん」であった亮子に送ったのでは・・・などと考えてしまいました。

他にも、癌治療を思わせる、一日一食にしてる件だとか、犀川助教授との問答で、定義の違いではなく犀川助教授に対して「若いからだ」と言ったあと「私はもう何年も生きられない」などとも述べていることだとか・・・。
それから、三ツ星館を建築したのは基生さんですし・・・結果的に(社会的、或いは世間的という意味も含め)生き残ったのが片山家の3人と湯川さんですし(これは弱い要素かも)・・・。

まあ、そういった様々な条件から、こじつけですが、地下室の老人=片山基生、故にラストシーンの老人=天王寺宗太郎と私は「定義」しました。

正解がどうかとかは、全く分かりませんが。



森博嗣『笑わない数学者』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

満足度は知的好奇心を刺激してくれたので。
オススメ度は、読んでもらった皆さんの意見を聞きたいから、ということで。


笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫) Book 笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)

著者:森 博嗣
販売元:講談社
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ねじれた家 (ハヤカワ文庫 AC) Book ねじれた家 (ハヤカワ文庫 AC)

著者:アガサ・クリスティー
販売元:早川書房
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2008年4月10日 (木)

『チルドレン』感想:主役は助演男優

祝!本屋大賞受賞の伊坂幸太郎さんの作品としては自分にとって第4作目になる『チルドレン』を読了致しました。

まず

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆★(8.5/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆★(7.5/10☆)

です。以下ネタバレ分を多少含みますので未読の方はご注意を。


本作は、いわゆるミステリにおける「日常の謎」を扱った短編集です。
「バンク」「チルドレン」「レトリーバー」「チルドレンⅡ」「イン」の5つの短編が収められており、それぞれの話は時間軸が前後しているものの相互に関連しながら繋がっていて、1つの長編とも言える物語を構成しています。
そのように本作を長編と為らしめてる男が「陣内」です。
それぞれの話では一人称で語る「主人公」が違いますが、どの話にも必ず一人の助演男優・・・「陣内」が出てくるのです。

本作はこの陣内が「主役」です。「主役」だと思います。

「常識」という枠から逸れ、まるでトラブルメーカーのように振る舞いながらも、不思議と憎めない男・・・「陣内」は、ある時は「日常の謎」を生み出し、またある時は「日常の謎」を解決する鍵となります。
ですが彼は、決して一人称で語る「主人公」とはなりません。
そこにこの作品の妙味があります。
「陣内」が生み出す不思議な日常を、それぞれの話の「主人公」たちと「読者」である私たちが味わうのです。

300ページ強(文庫版)に収められた物語は、字も大きい上に、伊坂作品の特徴である温かいユーモアやセンスたっぷりの会話とやり取りで満たされています。
ですので、伊坂節が合わない!という方以外でしたら、本作の世界観に後押しされて、あっという間に読了となるかと思います。

伊坂作品の入門書にもいいかもしれませんが、やはり読まれるならデビュー作から順に、ということがいいかと(その理由はデビュー作から読んでいけば分かると思います^^)。
満足度がやや低いのは、自分が大どんでん返しが好きなのと、些か期待しすぎたために、他の長編伊坂作品に比べてちょっと物足りなさを感じたからです(この理由は米澤穂信さんの『愚者のエンドロール』などと同じです)。
ただ、後からジワジワと心地よい清涼感が体中に染み渡っていくような作品でもありました。
こうした読後感の良さは、伊坂作品の特徴の1つですね。


伊坂幸太郎『チルドレン』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆★(8.5/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆★(7.5/10☆)

チルドレン (講談社文庫 (い111-1)) Book チルドレン (講談社文庫 (い111-1))

著者:伊坂 幸太郎
販売元:講談社
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2008年4月 9日 (水)

祝!『ゴールデンスランバー』本屋大賞受賞

大好きな伊坂幸太郎さんの作品『ゴールデンスランバー』が、なんとなんと本屋大賞を受賞したそうです(^-^)

 

ちなみに本作の感想はこちらで。

今まで本賞を受賞した作品は必ず映像化されてきましたし、出版社主催の賞などよりも、より読者の視点に近い賞と言うことで年々影響力も大きくなってきている感じの本屋大賞。

その2008年受賞作に伊坂幸太郎さんの作品が選ばれるとは・・・ほんと嬉しい限りです。

新作を上梓する度に、直木賞、そして本屋大賞などにノミネートされてきた伊坂幸太郎さんですが、本当にやっと、やっと大賞を、本屋大賞を受賞することになりました。

個人的にはこれを機に、もっともっと魅力的な作品を、作品世界を描き出されることを期待します。
そして「伊坂幸太郎・・・って誰?」な人にも、もっともっと知られて、その作品が読まれ、楽しまれることを願ってますー。


ともかく本当に伊坂幸太郎さん、おめでとうございます!

ゴールデンスランバー Book ゴールデンスランバー

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
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2008年4月 8日 (火)

『殺戮にいたる病』感想:先入観の危うさ(ちょいネタバレあり)

※この記事は昨年書かれたものを加筆修正したものです。

我孫子武丸さんの『殺戮にいたる病』をやっと読み終えました自分ですこんばんは。

まず初めに

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

です。

我孫子さんの作品の中でも最高傑作、またミステリ作品の中でも秀作と評判の高い本作。
実は結構前から読んでいたのですけど、読んでる途中で寝ちゃったりして読了までにかなりの日数をかけてしまいました。

というのもこの作品、結構グロいというかエグい描写がありまして、その度に自分は思わず目を背け、本を閉じ、そしていつの間にか寝に入ってしまったりしてたのです。

そんなわけで吉祥寺サンロードの古本屋「外口書店」で買ったときには新品同様だったこの本も、読了後は表紙やページが寝相の悪い持ち主のせいで折れ曲がりまくりの悲惨な体となってしまったのでした。

本は、特にミステリは・・・こうなんて言えばいいのでしょう・・・自分は文章で表現されてる情景を足りてない脳みそをフルに稼働させて想像しながら読むタイプなので、グロ表現とかはやっぱりちょっとキツイのです・・・決して嫌いというわけではないのですが。

でまあ、そんなこんなで本題の感想ですが、面白かったですし、トリックは本当に見事でした。
15年以上前の作品なのですが、まさに現在進行形な問題をトリックに取り入れてるのも色々考えさせられて素晴らしいと思いました。

「殺戮にいたる病」と「現代の家族問題」

うーん・・・本当に色々と考えさせられました。

我孫子さんにとって京大推理小説研究会での先輩にあたる綾辻行人さんの『十角館の殺人』よりも、個人的には好きかもしれません・・・。
衝撃度では『十角館』の方が上かもですが。

ともかく最後の最後でトリックが明かされますと、思わず読み返したくなること受け合いな作品でした。
伏線を回収したくなりますし、トリックを知ってからもう一度読みますと、また違った印象を得ることになると思いますので・・・。

読み方としましては、自分のように日を空けて読まないで、一気に読んだ方がより楽しめると思いますし、衝撃度も違ってくると思います。先に述べた ように、ちょっとグロくてエグい描写がありますので、オススメ度は9.5☆になってしまいましたが、限りなく10☆満点に近い9.5☆ということで。

さて、そこでちょこっとだけ本作の内容を紹介致します。

この作品は、いきなり「エピローグ」から始まります。
連続殺人事件の「犯人」の家に・・・最後の犯行現場に警官らが踏み込み、その「犯人」が逮捕される場面と、その後の公判での出来事、そして判決内容が軽く述べられた後、本編が始まります。
本編ではこのエピローグの前年から話が始まり、次第にエピローグの場面へと話が収斂していくという構成です。

つまり読者は初っぱなから「犯人」が誰か知っている。
なのに騙されちゃうんですね。
この騙し方は上手い!と思いました。

ちなみにこの作品も『十角館の殺人』同様、映像化はかなり難しい(というか不可能?)だと思いますー・・・。

そして以下にはネタバレ(風味)な感想を。
本作を読もうと思われた方は目を背けて下さいませ。




















解説の笠井潔さんが指摘されてるとおり、本書は叙述トリック作品の中でもかなりの傑作だと思いました。
個人的にこのトリックそのものはすごく真摯だと思いますし、卑怯さ・・・つまり「こりゃひどい」と感じることもありませんでしたし、「なんて突飛で強引なこじつけ」とも思わなかったです。

犯人が殺人にいたる動機・・・内に秘めた病理とそれを生み出す現代社会が抱えた問題をトリックに組み込んで上手く話が編み上げられてる感じがして、そこはすごいな・・・と思いました。

で、最後の最後で「犯人」の素性が露わになった時には、他愛もないと思っていた文章の中に如何に多くの伏線が張られていたか驚くことにもなると思います。

ちなみに自分は本書をスススーと読んでいた時、ある言葉に違和感を覚えてしばし天井を見つめて笑ってしまいました。
でも、そこで、大まかな叙述トリックの仕掛けが、なんとなーくぼんやりと形になり始めたんですよね・・・。

その言葉とは「地味な和服」です。

少年時代を思い出す「犯人」の稔。
その頃の稔の母は、友人が羨むほど美しく、授業参観に来る親の中でも一際若く、「地味な和服」に身を包んでも、立ち上る色気は隠しようもないほどで・・・というようなくだり。

そこで思わず、「和服~?授業参観に和服なんて着て来るかな~?(正確には、この文章では授業参観に和服を着て来たとも、そうでないとも取れるような表現になっています)」

そりゃ和服着るような古式ゆかしいご家庭もありますが、少なくとも今までのこの「犯人」のいる家庭の描写からは、そんな感じは微塵も受けなかったのです。
そこでふと本書に仕組まれたトリックの解が、自分の頭の中で、朧気ながら形を成し始めたのでした。まあ、偶然なんですけど。

でも、そういうヒントとなる伏線が至る所にある、とてもフェアな作品だと思います。
2度目読んだら、もうほんと「ああっ!」って唸っちゃっいましたし^^;

「こんなとこにも伏線が!」
「ああ、この表現にミスリードさせられたんだ!」とか^^;






















うん、ともかく読んで良かった作品でした。
ミステリ好きの方には是非一度読んで頂きたい一作です。

我孫子武丸『殺戮にいたる病』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

殺戮にいたる病 (講談社文庫) Book 殺戮にいたる病 (講談社文庫)

著者:我孫子 武丸
販売元:講談社
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2008年4月 7日 (月)

『冷たい密室と博士たち』感想:Why done it?(ネタバレあり)

森博嗣さんのS&Mシリーズ2作目となる『冷たい密室と博士たち』を読了致しました。

まず感想点ですが、ちょっと厳しめに

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)

です。面白かったです。楽しませて頂きました。
以下、ネタバレがありますので未読の方はご注意を。


さて、S&Mシリーズの1作目であり、第1回メフィスト賞受賞作である『すべてがFになる』の解説に書かれていましたが、何でも『Fになる』よりも、こちらの作品の方が先に書かれたとか。
その意味ではS&Mシリーズの本当の意味での第1作となるのかもしれませんが、やはり森博嗣さんを知り、その著作を味わうのであるならば『Fになる』から読まれた方がいいかと。
あちらの方がトリックや物語の真相、そして登場人物のインパクトが大きいですので。

対してこちら『冷たい密室と博士たち』は、トリックなど、とにかくいたってオーソドックス。正統派な本格ミステリでした。
理系の知識が全然無くても謎が十分解けてしまうほどに、です(この点がちょっと満足度を下げたかも・・・)。

しかし登場人物が・・・犀川助教授と西之園萌絵が正統派なミステリから逸脱してるような・・・マンガ的なキャラとなってますので、彼らの会話といいますか、言い回しが苦手な人はやはり向かないかもしれません。自分は好きなのでその辺は大丈夫でしたが。
この犀川助教授や西之園萌絵を中心とした彼らの、ちょっと(いやかなり?)くせのある会話や言い回しを除けば、繰り返しになりまずが、本作は本当にいたって正統派な本格ミステリでした。

ミステリ好きで卓見のある方ならば、本作のタイトルと、中表紙の裏に描かれている、犯行現場「極地研」の案内図を見ただけで犯人像が想像できてしまうかもしれませんね。
何せタイトルに「博士”たち”」と書かれていますから・・・。
事務員の横岸さんや鈴村さんが、あるいは守衛の小川さんたちが犯人だったら、おそらく『冷たい密室と”博士たち”』なんてタイトルにはなりません でしょうし・・・まあ、こういう犯人当ての仕方はフェアじゃない気がしますが、自分はついついやってしまいます^^;(『Fになる』の粗筋で「真賀田四季 博士の死体が発見された」というようなことが書かれていなかったことから、死体が四季博士のものでないと推察したように・・・)

自分はそのようなフェアじゃない方法で犯人像を絞り込みました・・・が、ミステリは犯人が分かったからといって面白くなくなる作品ばかりではありません。
本作も犯人が分かったからといって、面白くなくなるということはありませんでした。

Why done it?

なぜ、そのような犯行に及んだのか?
この疑問符によって、自分は本作を最後まで楽しむことが出来たためです。
ところがその犯行動機もいたってオーソドックスなものあったため、ちょっとばかし残念!と思いました・・・思いましたが、登場人物たちの魅力がそれを補ってくれた感じです。

ともかくも登場人物たちとその会話が苦手だー!という方以外でしたら、本格もののミステリとして十分楽しめる出来ではないかと。
至る所に散りばめられた伏線(それはいかにも!というものや、さりげなく隠されたものまで様々)を探すのも、楽しいと思います。

あとはやはり、もう少し短くなればもっといいような気も個人的にはするのですが・・・犀川助教授は解決に向けて積極的に動く「探偵」ではありませんので、これは難しいかもですね^^;

『冷たい密室と博士たち』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)

冷たい密室と博士たち (講談社文庫) Book 冷たい密室と博士たち (講談社文庫)

著者:森 博嗣
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2008年3月30日 (日)

『六番目の小夜子』感想:そして、気付かぬうちに青春は終わる

※この記事は昨年書かれたものを加筆修正したものです。

恩田陸さんのデビュー作『六番目の小夜子』
映像化もされた有名な作品ですが、今回はその感想を。

 

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆★(6.5/10☆)
個人的満足度は厳しめに☆☆☆☆★(4.5/10☆)

 

ともかくもまずは「サヨコ」という行事。この設定が面白い、素晴らしい。
何とも謎めいていて、興味を惹かずにはいられません。
だからその謎に引っ張られるように、どんどんと読んでいけました。読んでしまってました。

そんなもんだから最後に謎を残したまま終わったときには、「あれ?あれれ??」と、何だかもやもやした気分になってしまったのです。
もし解釈は読者にお任せする、ということだとしても、解釈する・・・判断する手がかりが少なくて、自分の頭では明快な答えが出せそうにもなくて・・・。
ここは読後感が悪くなって、満足度が低くなった点です。

 


ところで、これは意味のないことだとしても、本作をカテゴライズするとしたら何になるのでしょーか?

 

ミステリ?
ホラー?
ファンタジー?

自分は読む前に漠然とミステリかな?なんて思って読み始めたのですが、何やら超常現象っぽいことが起きたりする上に、そのミステリとしての謎の多くも明らかにされないまま。
だから繰り返しになりますが、この点から言えば、本っ当に個人的満足度は低いのです。
ですが全く面白くない!(`皿´)ってことにはなりませんでした。
その理由は、自分が本作を「青春もの」として捉えて、その上で一定の満足感を読了後に得られたからです。

本作の高校生たち、どうでしょう?
総じて大人しいというか優等生ですよね。
酒飲んで、タバコ吸ったりする奴もいますが可愛いものです。
まー、あんましリアルっぽくないって感じる人が多いかもしれないですが・・・。
でも、この高校生たちの人物描写と高校そのものの描写、自分の高校時代と結構被るとこがあって、そこに「青春」を感じちゃったんですよね。
自分も一応地方の公立進学校に行ってたもので・・・。

で、その「青春補正」で満足度の☆がいくつかかさ上げされました。

作中では、「青春」というか高校時代ってのは、「中途半端な端境の位置にあって」、「奇妙に宙ぶらりん」で、本当にいつの間にか気付かぬうちに 「自分たちの将来や人生が少しずつ定められて、枝分かれ」していって、気が付けば「『受験生』という囲いの中に追い込まれている」ことを知っちゃう・・・ そしていつの間にか「卒業」しているものだって表現されてますけれど、これって自分の実感なのですよね。
もちろん高校生の中には、未来をきちっと見据えた立派な人もいますけど・・・。

でもやっぱり、高校時代は、学校というものは、そして青春は特別で、あんなに仲良く毎日当たり前のように一緒にいた仲間や友人とは、「卒業」を境にして、もう二度とそういう風に付き合えない。
仲の良いままであっても、学校という中で、毎日毎日顔を付き合わせるようなことは無くなっちゃう。
そういう意味で、学校ってほんとに不思議で変なところだと思うのです。

んでもって、そのなんとも不思議な「学校」という場で過ごした日々-それはよく青春とか呼ばれる-ってのは、本当によく分からないものだとか思うのです。
社会の、世界のルールだとか仕組みだとか、とにかく色んなことが分からなくて、自分自身のことすら分からなくて、謎は残ったまま、そしてそのまま「卒業」していくものだと思って・・・。

だから『六番目の小夜子』でも、そうして謎は残ったまま終わっても、ま、それも「青春」よねっていう風に自分の中で割り切ったのです。
気付かないまま、分からないまま、終わっていく。卒業していく。
だから、不満!不満!不満!ってなことにはならずに、少しだけ満足することが出来たというわけです。

あとはちょっと期待しすぎたということでしょうか。その点で、満足度も低めになったということで・・・ここは米澤穂信さんの『愚者のエンドロール』と同じパターンです。
満足度に比してオススメ度が高いのは、恩田陸さんの本、とりあえず読んでみるならば、やっぱデビュー作でしょうということで。

いかかでしょう?


『六番目の小夜子』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆★(6.5/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆★(4.5/10☆)

六番目の小夜子 (新潮文庫) Book 六番目の小夜子 (新潮文庫)

著者:恩田 陸
販売元:新潮社
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2008年3月29日 (土)

『同級生』感想:幻想的少女の献身

※この記事は昨年書かれたものを加筆修正したものです。

東野圭吾さんが本を読むようになったきっかけとなる本『アルキメデスは手を汚さない』の感想と関連して、この作品の感想を。

まず最初に本作の個人的満足度など・・・。

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆★(8.5/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)

です。

『アルキメデスは手を汚さない』を読んでいて浮かんだのは、同じ学園を舞台とした青春ミステリの『放課後』と、この『同級生』でした。
どちらも好きな作品ですが、どっちか一つと言われれば、迷わず『同級生』を。
そして『アルキメデスは手を汚さない』を読んでる際に強く浮かんだのも『同級生』でした。

『同級生』は『アルキメデスは手を汚さない』と同様、ある女子高生-野球部のマネージャーだった宮前由希子-の死から物語が始まります。そしてまた『アルキメデス~』と同様、その亡くなった少女は妊娠していたのです。

主人公で野球部のキャプテンである西原荘一は、宮前由希子が妊娠していた事実を知ると、そのお腹の子が自分の子であることを確信し、そしてそれを公表します。
さらに宮前由希子の死に疑問が生じると、それを解決すべく動き、ある教師が怪しいと思うに至って、衆目の中でそれを追求するのです・・・が、後日その教師が絞殺体となって発見されることで、逆に荘一に教師殺害の疑惑の目が向けられることになってしまうのです・・・。

誰が犯人か?
そしてトリックは?・・・という謎と同時に、本作品の大きな魅力となっているのが、青春ミステリの肝、高校生らの心情とその人間関係です。
あるトリックを解くことで世界観が裏返るようなことがあるように、本作でもすべての謎が解けたとき、おそらく読者は主人公を始めとした登場人物への印象が変わってくるのではないでしょうか?
少なくとも自分はそうでした。

自分は『同級生』の登場人物が好きであり、だからこそ東野圭吾さんの作品の中でも特に好きなものの一つとなっています。
特に物語のキーとなる水村緋絽子には「萌え」ました。
けれど彼女、いかにも男性がイメージとして抱きそうな都合のいい女性(少女)像という感じで(だからこそ自分は萌えたのですが)、現実感に乏しい感じは否めません。
男性の、男の幻想が生み出した少女って感じがするのですよね。ま、現実感に乏しいから、何となく謎めいて神秘的に感じたのも事実ですが。

この水村緋絽子と主人公の西原荘一に対してどのような印象を抱くかで、本作の感想はかなり変わってくると思います。


ちなみに本作、教職に就いておられる方は読むと嫌な気分になるかもしれません。
その理由は東野圭吾さん自身による後書きで・・・。

後書きは東野圭吾ファンなら必見だと思います。

『同級生』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆★(8.5/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10)

同級生 (講談社文庫) Book 同級生 (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
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2008年3月28日 (金)

『アルキメデスは手を汚さない』感想:時代を経て

※この記事は昨年書かれたものを加筆修正したものです。

青春ミステリを分野として確立したとされる第19回江戸川乱歩賞受賞作、小峰元さんの『アルキメデスは手を汚さない』を本日読了しました。

まず最初に

個人的オススメ度は☆☆☆☆★(4.5/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)

です。

さて、まずはこの本と自分について。
自分はこの本の存在を東野圭吾さんの作品の後書きかなんか(だったと思うのですが・・・)で初めて知りました。約2年前のことです。
東野圭吾さんが本を読むようになったのは、この作品との出会いがきっかけだったとか。
それで気になって調べてみたら、作家の小峰元さんは1921年生まれ。
本作の発表も1973年。随分と古い作品なのだなぁと思ったものです。

ともかくも大好きな作家・東野圭吾さんのいわば出発点になった作品ということで、いつかは読んでみようと思ってました。
そうしていたところ、昨年文庫版が新装復刊されることとなり、書店で平積みされていた本作を手に取ったというわけです。

ちなみに、もし東野圭吾さんの後書きで本作の存在を知ることがなかったとしても、書店で本作を目にしたとしたら、多分自分は手に取っていたと思います。

『アルキメデスは手を汚さない』という興味を惹かないではいられないタイトル。
そして新装版の何とも言えない雰囲気を醸し出している・・・どこか仄暗い印象を受ける空と鉄塔、そして1人佇む女子高生という・・・装丁(書店やamazonとかで見てくれると幸いです)。
この表紙と裏表紙の宣伝文句が、自分をレジに走らせていたことでしょう。

さらにちょっと付