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2008年4月6日 - 2008年4月12日

『チルドレン』感想:主役は助演男優

祝!本屋大賞受賞の伊坂幸太郎さんの作品としては自分にとって第4作目になる『チルドレン』を読了致しました。

まず

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆★(8.5/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆★(7.5/10☆)

です。以下ネタバレ分を多少含みますので未読の方はご注意を。


本作は、いわゆるミステリにおける「日常の謎」を扱った短編集です。
「バンク」「チルドレン」「レトリーバー」「チルドレンⅡ」「イン」の5つの短編が収められており、それぞれの話は時間軸が前後しているものの相互に関連しながら繋がっていて、1つの長編とも言える物語を構成しています。
そのように本作を長編と為らしめてる男が「陣内」です。
それぞれの話では一人称で語る「主人公」が違いますが、どの話にも必ず一人の助演男優・・・「陣内」が出てくるのです。

本作はこの陣内が「主役」です。「主役」だと思います。

「常識」という枠から逸れ、まるでトラブルメーカーのように振る舞いながらも、不思議と憎めない男・・・「陣内」は、ある時は「日常の謎」を生み出し、またある時は「日常の謎」を解決する鍵となります。
ですが彼は、決して一人称で語る「主人公」とはなりません。
そこにこの作品の妙味があります。
「陣内」が生み出す不思議な日常を、それぞれの話の「主人公」たちと「読者」である私たちが味わうのです。

300ページ強(文庫版)に収められた物語は、字も大きい上に、伊坂作品の特徴である温かいユーモアやセンスたっぷりの会話とやり取りで満たされています。
ですので、伊坂節が合わない!という方以外でしたら、本作の世界観に後押しされて、あっという間に読了となるかと思います。

伊坂作品の入門書にもいいかもしれませんが、やはり読まれるならデビュー作から順に、ということがいいかと(その理由はデビュー作から読んでいけば分かると思います^^)。
満足度がやや低いのは、自分が大どんでん返しが好きなのと、些か期待しすぎたために、他の長編伊坂作品に比べてちょっと物足りなさを感じたからです(この理由は米澤穂信さんの『愚者のエンドロール』などと同じです)。
ただ、後からジワジワと心地よい清涼感が体中に染み渡っていくような作品でもありました。
こうした読後感の良さは、伊坂作品の特徴の1つですね。


伊坂幸太郎『チルドレン』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆★(8.5/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆★(7.5/10☆)

チルドレン (講談社文庫 (い111-1)) Book チルドレン (講談社文庫 (い111-1))

著者:伊坂 幸太郎
販売元:講談社
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祝!『ゴールデンスランバー』本屋大賞受賞

大好きな伊坂幸太郎さんの作品『ゴールデンスランバー』が、なんとなんと本屋大賞を受賞したそうです(^-^)

 

ちなみに本作の感想はこちらで。

今まで本賞を受賞した作品は必ず映像化されてきましたし、出版社主催の賞などよりも、より読者の視点に近い賞と言うことで年々影響力も大きくなってきている感じの本屋大賞。

その2008年受賞作に伊坂幸太郎さんの作品が選ばれるとは・・・ほんと嬉しい限りです。

新作を上梓する度に、直木賞、そして本屋大賞などにノミネートされてきた伊坂幸太郎さんですが、本当にやっと、やっと大賞を、本屋大賞を受賞することになりました。

個人的にはこれを機に、もっともっと魅力的な作品を、作品世界を描き出されることを期待します。
そして「伊坂幸太郎・・・って誰?」な人にも、もっともっと知られて、その作品が読まれ、楽しまれることを願ってますー。


ともかく本当に伊坂幸太郎さん、おめでとうございます!

ゴールデンスランバー Book ゴールデンスランバー

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
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『殺戮にいたる病』感想:先入観の危うさ(ちょいネタバレあり)

※この記事は昨年書かれたものを加筆修正したものです。

我孫子武丸さんの『殺戮にいたる病』をやっと読み終えました自分ですこんばんは。

まず初めに

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

です。

我孫子さんの作品の中でも最高傑作、またミステリ作品の中でも秀作と評判の高い本作。
実は結構前から読んでいたのですけど、読んでる途中で寝ちゃったりして読了までにかなりの日数をかけてしまいました。

というのもこの作品、結構グロいというかエグい描写がありまして、その度に自分は思わず目を背け、本を閉じ、そしていつの間にか寝に入ってしまったりしてたのです。

そんなわけで吉祥寺サンロードの古本屋「外口書店」で買ったときには新品同様だったこの本も、読了後は表紙やページが寝相の悪い持ち主のせいで折れ曲がりまくりの悲惨な体となってしまったのでした。

本は、特にミステリは・・・こうなんて言えばいいのでしょう・・・自分は文章で表現されてる情景を足りてない脳みそをフルに稼働させて想像しながら読むタイプなので、グロ表現とかはやっぱりちょっとキツイのです・・・決して嫌いというわけではないのですが。

でまあ、そんなこんなで本題の感想ですが、面白かったですし、トリックは本当に見事でした。
15年以上前の作品なのですが、まさに現在進行形な問題をトリックに取り入れてるのも色々考えさせられて素晴らしいと思いました。

「殺戮にいたる病」と「現代の家族問題」

うーん・・・本当に色々と考えさせられました。

我孫子さんにとって京大推理小説研究会での先輩にあたる綾辻行人さんの『十角館の殺人』よりも、個人的には好きかもしれません・・・。
衝撃度では『十角館』の方が上かもですが。

ともかく最後の最後でトリックが明かされますと、思わず読み返したくなること受け合いな作品でした。
伏線を回収したくなりますし、トリックを知ってからもう一度読みますと、また違った印象を得ることになると思いますので・・・。

読み方としましては、自分のように日を空けて読まないで、一気に読んだ方がより楽しめると思いますし、衝撃度も違ってくると思います。先に述べた ように、ちょっとグロくてエグい描写がありますので、オススメ度は9.5☆になってしまいましたが、限りなく10☆満点に近い9.5☆ということで。

さて、そこでちょこっとだけ本作の内容を紹介致します。

この作品は、いきなり「エピローグ」から始まります。
連続殺人事件の「犯人」の家に・・・最後の犯行現場に警官らが踏み込み、その「犯人」が逮捕される場面と、その後の公判での出来事、そして判決内容が軽く述べられた後、本編が始まります。
本編ではこのエピローグの前年から話が始まり、次第にエピローグの場面へと話が収斂していくという構成です。

つまり読者は初っぱなから「犯人」が誰か知っている。
なのに騙されちゃうんですね。
この騙し方は上手い!と思いました。

ちなみにこの作品も『十角館の殺人』同様、映像化はかなり難しい(というか不可能?)だと思いますー・・・。

そして以下にはネタバレ(風味)な感想を。
本作を読もうと思われた方は目を背けて下さいませ。




















解説の笠井潔さんが指摘されてるとおり、本書は叙述トリック作品の中でもかなりの傑作だと思いました。
個人的にこのトリックそのものはすごく真摯だと思いますし、卑怯さ・・・つまり「こりゃひどい」と感じることもありませんでしたし、「なんて突飛で強引なこじつけ」とも思わなかったです。

犯人が殺人にいたる動機・・・内に秘めた病理とそれを生み出す現代社会が抱えた問題をトリックに組み込んで上手く話が編み上げられてる感じがして、そこはすごいな・・・と思いました。

で、最後の最後で「犯人」の素性が露わになった時には、他愛もないと思っていた文章の中に如何に多くの伏線が張られていたか驚くことにもなると思います。

ちなみに自分は本書をスススーと読んでいた時、ある言葉に違和感を覚えてしばし天井を見つめて笑ってしまいました。
でも、そこで、大まかな叙述トリックの仕掛けが、なんとなーくぼんやりと形になり始めたんですよね・・・。

その言葉とは「地味な和服」です。

少年時代を思い出す「犯人」の稔。
その頃の稔の母は、友人が羨むほど美しく、授業参観に来る親の中でも一際若く、「地味な和服」に身を包んでも、立ち上る色気は隠しようもないほどで・・・というようなくだり。

そこで思わず、「和服~?授業参観に和服なんて着て来るかな~?(正確には、この文章では授業参観に和服を着て来たとも、そうでないとも取れるような表現になっています)」

そりゃ和服着るような古式ゆかしいご家庭もありますが、少なくとも今までのこの「犯人」のいる家庭の描写からは、そんな感じは微塵も受けなかったのです。
そこでふと本書に仕組まれたトリックの解が、自分の頭の中で、朧気ながら形を成し始めたのでした。まあ、偶然なんですけど。

でも、そういうヒントとなる伏線が至る所にある、とてもフェアな作品だと思います。
2度目読んだら、もうほんと「ああっ!」って唸っちゃっいましたし^^;

「こんなとこにも伏線が!」
「ああ、この表現にミスリードさせられたんだ!」とか^^;






















うん、ともかく読んで良かった作品でした。
ミステリ好きの方には是非一度読んで頂きたい一作です。

我孫子武丸『殺戮にいたる病』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

殺戮にいたる病 (講談社文庫) Book 殺戮にいたる病 (講談社文庫)

著者:我孫子 武丸
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『冷たい密室と博士たち』感想:Why done it?(ネタバレあり)

森博嗣さんのS&Mシリーズ2作目となる『冷たい密室と博士たち』を読了致しました。

まず感想点ですが、ちょっと厳しめに

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)

です。面白かったです。楽しませて頂きました。
以下、ネタバレがありますので未読の方はご注意を。


さて、S&Mシリーズの1作目であり、第1回メフィスト賞受賞作である『すべてがFになる』の解説に書かれていましたが、何でも『Fになる』よりも、こちらの作品の方が先に書かれたとか。
その意味ではS&Mシリーズの本当の意味での第1作となるのかもしれませんが、やはり森博嗣さんを知り、その著作を味わうのであるならば『Fになる』から読まれた方がいいかと。
あちらの方がトリックや物語の真相、そして登場人物のインパクトが大きいですので。

対してこちら『冷たい密室と博士たち』は、トリックなど、とにかくいたってオーソドックス。正統派な本格ミステリでした。
理系の知識が全然無くても謎が十分解けてしまうほどに、です(この点がちょっと満足度を下げたかも・・・)。

しかし登場人物が・・・犀川助教授と西之園萌絵が正統派なミステリから逸脱してるような・・・マンガ的なキャラとなってますので、彼らの会話といいますか、言い回しが苦手な人はやはり向かないかもしれません。自分は好きなのでその辺は大丈夫でしたが。
この犀川助教授や西之園萌絵を中心とした彼らの、ちょっと(いやかなり?)くせのある会話や言い回しを除けば、繰り返しになりまずが、本作は本当にいたって正統派な本格ミステリでした。

ミステリ好きで卓見のある方ならば、本作のタイトルと、中表紙の裏に描かれている、犯行現場「極地研」の案内図を見ただけで犯人像が想像できてしまうかもしれませんね。
何せタイトルに「博士”たち”」と書かれていますから・・・。
事務員の横岸さんや鈴村さんが、あるいは守衛の小川さんたちが犯人だったら、おそらく『冷たい密室と”博士たち”』なんてタイトルにはなりません でしょうし・・・まあ、こういう犯人当ての仕方はフェアじゃない気がしますが、自分はついついやってしまいます^^;(『Fになる』の粗筋で「真賀田四季 博士の死体が発見された」というようなことが書かれていなかったことから、死体が四季博士のものでないと推察したように・・・)

自分はそのようなフェアじゃない方法で犯人像を絞り込みました・・・が、ミステリは犯人が分かったからといって面白くなくなる作品ばかりではありません。
本作も犯人が分かったからといって、面白くなくなるということはありませんでした。

Why done it?

なぜ、そのような犯行に及んだのか?
この疑問符によって、自分は本作を最後まで楽しむことが出来たためです。
ところがその犯行動機もいたってオーソドックスなものあったため、ちょっとばかし残念!と思いました・・・思いましたが、登場人物たちの魅力がそれを補ってくれた感じです。

ともかくも登場人物たちとその会話が苦手だー!という方以外でしたら、本格もののミステリとして十分楽しめる出来ではないかと。
至る所に散りばめられた伏線(それはいかにも!というものや、さりげなく隠されたものまで様々)を探すのも、楽しいと思います。

あとはやはり、もう少し短くなればもっといいような気も個人的にはするのですが・・・犀川助教授は解決に向けて積極的に動く「探偵」ではありませんので、これは難しいかもですね^^;

『冷たい密室と博士たち』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)

冷たい密室と博士たち (講談社文庫) Book 冷たい密室と博士たち (講談社文庫)

著者:森 博嗣
販売元:講談社
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