『ゴールデンスランバー』感想:「たいへんよくできました」な、三十路に贈る青春エンタメ(ネタバレあり)
今回は伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』が第5回本屋大賞を受賞したとのことで、急遽予定を変えてその感想です。
ちなみに予定通りだと、アガサ・クリスティ女史の『そして誰もいなくなった』つながりで、綾辻行人さんの『十角館の殺人』をやるつもりでした。
ともかくまず最初に
個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(10/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)
です。
個人的満足度は、今後、本作を上回るような作品を書いて欲しいという気持ちも込めて9.5☆
限りなく満点に近い9.5☆ということで。
伊坂さんファンなので、ちょっと(かなり?)甘めかもです。
あと感想がまとまりを欠き長いです。
それから本作はなるべく前知識や先入観を持たずに読んで欲しいですので、そうして下さる方には即ブラウザバック推奨です(^-^)
さて、本作は「伊坂幸太郎的に娯楽小説に徹したらどうなるか」という発想から生まれた作品だそうで、実際、そのコンセプトを裏切らない500ページ強に及ぶエンターテインメント長編になっていました。相変わらず伏線の回収とまとめ方も素晴らしかったです。
本作の大まかなストーリーは、「セキュリティポッド」と呼ばれる最新の監視装置があちこちに配された仙台市街・・・その仙台市街でパレード中だった首相を爆殺したとの罪を着せられた三十路ちょい過ぎの男(ちなみに現在失職中)・・・青柳雅春の逃亡劇となっています。
首相暗殺と国家的陰謀(・・・そう!陰謀論!)の影。そして濡れ衣を着せられた無辜の一般市民とその逃亡劇・・・と、何やらハリウッド映画や日本 の他のあらゆる娯楽作品でも既にやり尽くされ手垢まみれの感のある設定でしたが、エンターテインメント性をしっかりと残したまま、冤罪に監視社会、そして マスコミによるメディアスクラム等の社会問題もしっかり取り入れてる点は、「流石だなー」と思わずにはいられませんでした。
さて、本作の妙はその構成にあります。
導入部となる第一部「事件の始まり」の後の第二部「事件の視聴者」では、事件発生からおおよそ3日間における事件の当事者以外(野次馬やマスコミ や目撃者や一般市民)の反応が描かれ、首相暗殺の黒幕(それが誰なのかは分からない)や、マスコミによって作り上げられた「首相暗殺犯・青柳雅春」の姿が 描き出されて、事件の視聴者とともに私たち読者もそこで「青柳雅春」なる人物のイメージを形成させられます。
しかし次の第三部「事件から20年後」では、ノンフィクションライターの調査書を用いる形で、事件の真相に関する様々な憶測が述べられた後、「た だひとつだけ確かなことがあるとすれば(中略)青柳雅春が、首相殺害の犯人であると信じてる者は、今や一人もいないだろう」と述べられ「逃げ続けていた二 日間、青柳雅春がいったい何を考えていたのか、誰にも分からない」と締めくくられているのです。
事件の喧噪に塗れた第二部と、事件を冷静に分析した第三部。
そこでは「青柳雅春」に関する評価が全く違ったものになっています。
そのギャップを埋めるのが、本作の核であり本編とも言える第四部「事件」です。
この第四部は、逃亡する主人公である「現在の青柳雅春」だけでなく、「学生時代の(昔の)青柳雅春」と、大学時代のサークル(それは本当にくだら ない、ファーストフード店でだべるだけの小さなサークル)仲間で、同時に青柳雅春の彼女でもありながら、その後彼と別れ、他の男性と結婚、大学卒業後勤め ていた会社を円満退社し、今や一児の母となっていた「現在の樋口晴子」と「学生時代の(昔の)樋口晴子」という主に4つの視点をもって重層的に描かれていま す。緊迫感溢れる逃亡劇を強いられている「現在」の鬼気迫る状況と、仲間たちと楽しく安穏とした日々を過ごしていた10年ほど前の「学生時代」の温かなエピソードが、こ の二人の視点を通すことでより強いコントラストを放ちながら、とても印象的なものとして描かれています。
また、本作を面白くしているのが、登場人物たちが三十路をちょっと越えたあたりということにもあると思います。
「何でも消えていくよね、ほんと」と第一部で樋口晴子が述べるとおり、三十路を過ぎた登場人物たちにとって、大学時代はまさに消え去ろうとしている過去。
学生時代の気分が抜けきらなかった20代前半と違い、20代後半から30代前半というのは、仕事ではより責任のある地位を与えられ、プライベート
では結婚、そして子をもうけるなどして、人生の新たな目標を定めるような時期・・・そんな端境の時期にあって、疎遠となっていた学生時代の仲間たちが、こ
の首相暗殺という大事件によって、過去の記憶を呼び起こしながら、動き出すのです。
家族を事実上の人質に取られ、陰謀に荷担させられていた大学時代のサークル仲間で親友でもあった森田森吾は、事実上8年ぶりの再会になる青柳雅春を 陰謀に陥れるために輸送中であった車内で、ビートルズの『ゴールデン・スランバー』を口ずさんだ後、「帰るべき故郷、って言われるとさ、思い浮かぶのはあの時の 俺たちなんだよ」と目を細めながら、学生時代を思い起こし、
「おまえ、オズワルドにされるぞ」
「おまえは逃げろ」
と、自らを犠牲にするように一人車内に残り、青柳雅春を逃がします。
また、同じくサークル仲間で1年後輩であった「カズ」こと小野一夫も、陰謀に荷担させられそうになりながらも、数年ぶりに再会した青柳雅春を逃がします。
そして何より昔の彼女であった樋口晴子も、です。
彼女は事件翌日の報道で、かつての彼氏、青柳雅春が「犯人」として取り上げられてるのを見て呆然とし、「別れてからもう大分年月も経つ・・・人は 変わることもあるかもしれない」などと思いつつも、報道される「首相暗殺犯・青柳雅春」の姿が、あまりにも自分の知ってる「青柳君」と違うことから、疑惑 と確信を抱き、娘の七美とともに行動を開始するのです。しかし彼女だけは「青柳雅春」と再会はしません。ここも本作の秀逸な点であり、また伏線になってい るかと思います。
その他にも学生時代のバイト先の轟社長、大学卒業後就職した運送会社の岩崎先輩や、同業者であった前園さんなど、「青柳雅春」の本来の姿を知る様 々な人々が彼の逃亡に力を貸し、さらには定年間近で閑職に追いやられていた警察官の児島安雄さんまでが、青柳雅春と接してるうちに彼をサポートするように なります。
また「青柳雅春」にとって敵役としてあてがわれている警察庁の佐々木一太郎課長補佐(ということはノンキャリ?)や、近藤守刑事などにも、所謂「黒幕」から様々な圧力がかかっていたのだろうなと思われ、憎々しい思いを抱くこともそれほどありませんでした。
青柳雅春は自分の現状に対し「誰かの、どこかの誰かの思惑でこんなことが起きている」・・・関係のない人や自分の知り合いに危害が加えられ、死んでいく、と憤ります。
それに対しある人物は「青柳さんが相手にしているのは、馬鹿でかい抽象的な敵だよ。たぶん、国家とか権力とか呼べちゃうようなさ」と述べ、それに対峙したときに一番利口な方法は「逃げること、かな」とアドバイスします。
青柳雅春もそのことは重々承知していた上で、逃げる前に一世一代の賭けに出るのですが・・・。
その先にどのような結末が待っているかは、エピローグとなっている第五部の「事件から三ヶ月後」で。
繰り返しになりますが、数々の伏線が美しくまとまっています。
私にとっては号泣はしないものの、登場人物たちのように知らず知らず泣いていたというシーンが何度もある青春エンターテインメント作品でした。
東野圭吾さんの最新作『流星の絆』の帯文の「息もつかせぬ展開、張り巡らせた伏線、驚きの真相、涙が止まらないラスト。すべての東野(伊坂)作品を超えた現代エンタメの最高峰」という言葉がより似合うのは、こっちのような気もしました^^
「彼らが仕掛けた復讐計画の最大の誤算は、妹の恋心だった」も、「彼らが仕掛けた暗殺計画の最大の誤算は、青柳雅春を繋ぐ絆だった」という感じに。
なお、ビートルズの『ゴールデン・スランバー』がどのようにして作られるに至ったかを考えながら読むと、読了後の余韻もまた心地よいものになるかと思います。
それから相変わらず伊坂作品の主人公は清潔漢ですね(^-^)
伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』
個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆(10/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)
ちなみに余談で、ほんとーにどうでもいいことですが、第三部を書いているノンフィクションライターは、第二部に登場している名無しの中学生かとも思いましたが・・・真相は闇の中、ですかね^^;
![]() |
ゴールデンスランバー
著者:伊坂 幸太郎 |
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コメント
すみません、初めてなんですけど、
第三部を書いたのは、あの人ですよね?あの人・・?
投稿 | 2008年4月24日 (木) 22時33分
初めまして。コメントありがとうございます(^-^)
第三部の件ですが自分は精読したわけではありませんので、誰が書いてるのかは分かりません・・・
今から寝る前にもう一度読んで考えてみようと思います・・・
投稿 青二才@管理人 | 2008年4月25日 (金) 01時31分
おはようございます(^-^)
昨晩第3部を読んでみました。
「筆者は昔、若者たちが『世の中の悪いこと全部が、自分たちのせいにされる。アメリカみたいだ』と嘆いていたのを聞いたことがある」「森の声」などから推察されるのは・・・あの人・・・ですかね?
投稿 青二才@管理人 | 2008年4月25日 (金) 08時45分