« 『チルドレン』感想:主役は助演男優 | トップページ | 『ねじれた家』感想:ねじれてる家。ねじれられない家。 »

『笑わない数学者』感想:神のトリック、凡人の知恵、そして真賀田四季の影(ネタバレあり)

チョコ(GABA)とコーヒーで足りない頭を働かせながら森博嗣さんの『笑わない数学者』をなんとか読了しました。

まず

個人的オススメ度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

です。ちょっと甘いかもです。以下ネタバレ分を含みますので未読の方はご注意を。


『笑わない数学者』はS&Mシリーズ第3作であり(書かれた順では『冷たい密室と博士たち』に次ぐ第2作)、同時に私にとっても第3作目となる森博嗣作品でもありました。
前作となる『冷たい密室と博士たち』と『すべてがFになる』は、森博嗣さんの作品世界に入門するような気持ちでスススーと読んでいったのですが、2作を読んで大分慣れた(つもりだった)ので、本作は精読しようと決めました。
というのも裏表紙の粗筋によれば、本作はなんと本格ミステリの王道たる「館もの」の模様!
これは犯人とトリックを是が非でも当てなければ!と息巻いて読み始めたのですが・・・

中表紙裏の館の見取り図を見て(前作の「極地研」の見取り図にはなかった方角表記がトリックの大きなヒントになってたり)「えーと、これはもしや・・・」と思ったらまさにその通りのトリック・・・。
そしてそのトリックから必然的に導き出される犯人。
序盤も序盤、第3章までには、多くの読者が殺人事件のトリックも、それを行った犯人も想像がつくでしょう。
意地が悪く、すぐに調子に乗ってしまう私からすれば、Who done it(フーダニット)とHow done it(ハウダニット)が分かった時点で有頂天になり、どうせ動機=Why done it(ホワイダニット)もありきたりのものだろう「ツマンネ」と言って本書を放り出してしまいそうなものですが、その意地の悪さが幸いしました。

意地の悪い私は、この殺人トリックは読者をミスリードさせるものではないかと思うに至ったのです。そうして、最後はどうなるのかとドキドキしながら読んだのですが・・・犀川助教授も西之園萌絵も、そもそもその殺人トリックになかなか気付いてくれずストーリーは終盤へ。

そして終了。

確かに終了したのですが、読了後に残ったのものは、私にとって殺人トリックよりも興味深い謎でした。
思わずアガサ・クリスティ女史の『ねじれた家』を思い起こさせるような、天才数学者・天王寺翔蔵博士を中心にした不思議な一家、いや一族。

果たして天王寺翔蔵博士とは何者?
ラストの白髪の老人は何者?
白骨死体は一体何者のもの?

これらの疑問がグルグルと足りてない私の脳みその中で渦を作り、知的好奇心を刺激したのです。

「もう一度読んでみよう」
そう思った自分は、付箋紙を取り出しました。

Mori000


最近、薬の副作用で健忘が激しい私は、神のトリックに凡人の知恵を以て挑んでみたのです。
三ツ星館が内宇宙と外宇宙を反転させてるとしても、私を含め読者はさらにその外側にいる。
そして私のような凡人でも、付箋紙を元にページをめくり直せば、正確な情報を得ることができます。
ですが、現実ではこうはいきません。
昨日の出来事を正確に反芻出来る人が現実にどれだけいるでしょうか?
事実、作品内の犀川助教授は記憶の中から問題の糸口を掴むのに苦労しました。
しかし作品世界のさらに外にいる私は、付箋紙の貼られたページをめくり直しさえすれば、正確な情報を得ることが出来るのです。

まず最も気になった点は、『笑わない数学者』というタイトルです。
『すべてがFになる』と『冷たい密室と博士たち』で、タイトルからトリックやストーリーを推察するというちょっとしたズルをした私は、ここでも同じ手段を取りました。
犀川助教授が終盤で言うように、白骨死体となった人と、地下室の老人と、さらにどこかにいる(であろう)老人が、天王寺翔蔵博士と、天王寺宗太郎、片山基生なのだとすると、「笑わない数学者」は白骨死体のみ。つまり白骨死体こそ天王寺翔蔵博士である可能性が高い。
彼は『睡余の思慕』のように、三ツ星館から出て行ったのではないかと推測されます。
では地下室にいる老人と、ラストシーンに出てくる老人は誰でしょう?
ラストシーンの老人に関しては、あまりに情報が少ないので、私は地下室の老人から考えてみることにしました。

地下室の老人は「天才数学者」ということになっていますが、私にはあまりそういう感じがしませんでした。
それは私が真賀田四季博士という天才に巡り会っていたからかもしれません。
事実、犀川助教授は地下室の老人との対面後、失望したと述べています。
また、解説で森毅さんは地下室の老人は「少しも偏屈でない」と述べてますが、私のような文系凡人からすると、ものすごい理屈っぽい偏屈な人に感じられました。
そして理屈っぽいと言えば天王寺宗太郎ではなく、片山基生でしょう。
何せ息子が「理屈っぽかった」と評しています。

また、萩原刑事が探してきた写真では基生氏が「仙人のような長髪になった」となっています。
さらにもしかすると『睡余の思慕』も、その作風が以前の著作とまるっきり違うことから、天王寺宗太郎ではなく、片山基生が書いたのかもしれません。
宗太郎が亮子や君枝から愛され、昇から思慕されていたのと対照的に、基生は誰からも愛されなかった・・・飛行機事故で一人生き残ってしまった人物のように、孤独感を感じていたのかもしれません・・・。
そしてその作品の原稿のコピーを「ぞっこん」であった亮子に送ったのでは・・・などと考えてしまいました。

他にも、癌治療を思わせる、一日一食にしてる件だとか、犀川助教授との問答で、定義の違いではなく犀川助教授に対して「若いからだ」と言ったあと「私はもう何年も生きられない」などとも述べていることだとか・・・。
それから、三ツ星館を建築したのは基生さんですし・・・結果的に(社会的、或いは世間的という意味も含め)生き残ったのが片山家の3人と湯川さんですし(これは弱い要素かも)・・・。

まあ、そういった様々な条件から、こじつけですが、地下室の老人=片山基生、故にラストシーンの老人=天王寺宗太郎と私は「定義」しました。

正解がどうかとかは、全く分かりませんが。



森博嗣『笑わない数学者』

個人的オススメ度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆(9/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★(9.5/10☆)

満足度は知的好奇心を刺激してくれたので。
オススメ度は、読んでもらった皆さんの意見を聞きたいから、ということで。


笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫) Book 笑わない数学者―MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)

著者:森 博嗣
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


ねじれた家 (ハヤカワ文庫 AC) Book ねじれた家 (ハヤカワ文庫 AC)

著者:アガサ・クリスティー
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« 『チルドレン』感想:主役は助演男優 | トップページ | 『ねじれた家』感想:ねじれてる家。ねじれられない家。 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/414914/20193519

この記事へのトラックバック一覧です: 『笑わない数学者』感想:神のトリック、凡人の知恵、そして真賀田四季の影(ネタバレあり):

« 『チルドレン』感想:主役は助演男優 | トップページ | 『ねじれた家』感想:ねじれてる家。ねじれられない家。 »