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『アルキメデスは手を汚さない』感想:時代を経て

※この記事は昨年書かれたものを加筆修正したものです。

青春ミステリを分野として確立したとされる第19回江戸川乱歩賞受賞作、小峰元さんの『アルキメデスは手を汚さない』を本日読了しました。

まず最初に

個人的オススメ度は☆☆☆☆★(4.5/10☆)
個人的満足度は☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)

です。

さて、まずはこの本と自分について。
自分はこの本の存在を東野圭吾さんの作品の後書きかなんか(だったと思うのですが・・・)で初めて知りました。約2年前のことです。
東野圭吾さんが本を読むようになったのは、この作品との出会いがきっかけだったとか。
それで気になって調べてみたら、作家の小峰元さんは1921年生まれ。
本作の発表も1973年。随分と古い作品なのだなぁと思ったものです。

ともかくも大好きな作家・東野圭吾さんのいわば出発点になった作品ということで、いつかは読んでみようと思ってました。
そうしていたところ、昨年文庫版が新装復刊されることとなり、書店で平積みされていた本作を手に取ったというわけです。

ちなみに、もし東野圭吾さんの後書きで本作の存在を知ることがなかったとしても、書店で本作を目にしたとしたら、多分自分は手に取っていたと思います。

『アルキメデスは手を汚さない』という興味を惹かないではいられないタイトル。
そして新装版の何とも言えない雰囲気を醸し出している・・・どこか仄暗い印象を受ける空と鉄塔、そして1人佇む女子高生という・・・装丁(書店やamazonとかで見てくれると幸いです)。
この表紙と裏表紙の宣伝文句が、自分をレジに走らせていたことでしょう。

さらにちょっと付け加えておくと、本書は乱歩賞を受賞した作品の中でも特にベストセラーになったものらしく、単行本部門では1995年度乱歩賞受 賞作・藤原伊織さんの『テロリストのパラソル』に抜かれるまで歴代セールス1位、文庫版の方では今もって堂々のセールス1位作品なんだそうです。
「伝説の青春ミステリ」などと紹介されるのも、あながち大げさではないのかもしれませんね。

さて、本題の感想についてですが、本作は、「今」の、「21世紀の現代」に多く出回ってる青春ミステリを読んでると、その時代感の隔たりにとまどいを覚えるかもしれません。
かくいう自分がそうでした。

青春ミステリと銘打っておきながら、序盤は不可解な「アルキメデス」という言葉を残して死んだ女子高生・美雪の父(叩き上げの土建屋の親父さん) が中心になって話が進み、その後もベテラン刑事と若手刑事の捜査陣コンビが度々主役のように動き回ったり、内容についても、会社員とOLの不倫、はたまた 鉄道や時刻表を使ったトリック(というかアリバイ崩し)だとかが出てきて、青春ミステリというよりは、いかにもテレビの2時間サスペンスドラマっていう感 じの要素がてんこ盛りになってます。
なのでそういう点では(今風の)青春ミステリって感じはしません。
30年以上前の作品なので当然といえば当然なのかもしれませんが。

あと、本書の解説でも評されてましたが、ミステリとしてのトリックと解決法は小粒。
なのでそういうのを期待するのもキツいかもしれません。

しかししかし、ぶっちゃけそれでもいいのかもしれませんね。
本書の最も魅力的な謎(ミステリ)は、高校生たち登場人物たちの心情や動機・・・(そう、動機!)、そして何より『アルキメデスは手を汚さない』とはどういうことか?ということだと思いますので・・・。

うん、でもやっぱ時代を経てますから、今読むと、彼らの心情や動機に特段驚かなかったり、またはそういう考え方に同調できないっていう人も多いと思います。
何度も言いますが時を経てますしね。

それでも彼らの青春像は虚像ではないと思います。
若者と呼ばれる者には、如何なる時代になろうとも決して変わらない不偏で堅い信念のような部分と、時代の変化を敏感に感じ取り、柔軟に変わっていく敏感で不安定な部分がありますから。
ある時代の学生は侃々諤々の哲学論議を繰り返し、権力に反抗し闘争を繰り返しました。
ある時代の学生は政治的無関心となり、レジャーに金にと群がりもしました。
どっちの学生が・・・若者が、本物の若者であるとかいうことは出来ません。
どっちもその時代その時代の若者の真の姿です。
この作品も、今読めば古く感じるかもしれませんが、刊行当時の若者の姿を上手く切り取ったからこそ、ここまでのベストセラーになったのではないでしょうか?

そして読んでみて感じた、今の若者と、当時の若者という時代を経たジェネレーションギャップ。
そして作品の中では、当時の大人と若者の間での、世代を隔てたジェネレーションギャップ。
このジェネレーションギャップから生まれる相互理解の難しさも、本作の重要なテーマの1つかもしれません。

そういうことを考えながら読むと、より楽しむことが出来ました。
ただ他人に「これ面白いよ。読んでみなよ」とは勧めにくいですね・・・。
東野圭吾、青春ミステリ(とその歴史)とかに特に興味がある人へならまあ・・・。


『アルキメデスは手を汚さない』

個人的オススメ度:☆☆☆☆★(4.5/10☆)
個人的満足度:☆☆☆☆☆☆☆(7/10☆)

ちなみに、自分は終盤とラストでの高校生たちの心情吐露の場面は何となく好きです。
いつの時代になっても、「ああ、そんな理由(動機)で・・・」っていう感じは変わりませんね。

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